民法(共同不法行為論 719条1項前段)

2021年 あけましておめでとうございます✨

新年一発目のメモは民法719条の共同不法行為についてです。

 

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問題演習しているときに、共同不法行為の典型事例として出てくるのは交通事故後の医療過誤の事例が多いですよね(これ以外はほぼ見たことがない)。

 

この時、交通事故の加害者(Xとする)の加害行為と医師(Yという)の医療過誤行為(過失)とを併せて共同不法行為であると構成して、損害額全額についての連帯債務を認める方向にもっていくと思います。

 

この点については、いわゆる平成13年判例最判平13.3.13民集55巻2号328頁)が判示している通りである。

以下、引用する。

「本件交通事故により,訴外Aは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの,事故後搬入された被上告人病院において,Aに対し通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば,高度の蓋然性をもってAを救命できたということができるから,本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが,Aの死亡という不可分の一個の結果を招来し,この結果について相当因果関係を有する関係にある。したがって,本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから,不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。」

 

この判決の事案の特徴は、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが、Aの死亡という不可分の一個の結果を招来し、相当因果関係を有しているという点である。

本判決については、各加害行為と実際に生じた結果との間に相当因果関係があれば共同不法行為が成立するとしている点で、共同不法行為と競合的不法行為とを区別できていないとの批判が加えられている。また、本事案と異なり、Aの死亡となった原因が交通事故によるものなのか医療事故によるものなのかが不明な場合(つまり、因果関係不明な場合)に、共同不法行為の成立が認められなくなるおそれがあるという点が指摘されている。

 

そもそも、我が国での共同不法行為論は、公害訴の趨勢と共に議論がなされ発展してきたものである。つまり、被害者の保護をどう図るかという点に重点があてられてきた分野であるといえる。その証拠に、昭和43年判決(最判昭43.4.23民集22巻4号964頁)は、共同不法行為の成立要件につき、①各行為者が709条の要件を備えていること、②各行為者との間に関連共同性が認められること、という(受験生にお馴染みの)規範のようなものを打ち立てて、結論として共同不法行為の成立を認めてはいる。

しかし、②の関連共同性がいかなる場合に認められるかについては示しておらず、その意義が必ずしも明らかでない。また、709条の要件を満たすのであればそもそも719条の成立を認める必要がないとして、①の要件を満たす必要はないとの批判が加えられることもあるが、共同不法行為が成立した際には、各行為者は損害額全額についての真正連帯債務を負うという効果が発生することから、かかる点を捉えて719条の意義を認めることもできる。この辺りは学説上も錯綜しており、説得的な理由付けができていない印象である。

 

 

では、どうするか。

とまぁ、共同不法行為論はいくつかの類型(コンビナート型、累積型等)があるとと共に、判例においても定型的な規範を杓子定規的に当てはめるようなことはせず、個別具体的事案に応じて妥当な結論を導こうとしているようである。

 

少なくとも、受験生が論文演習で書く際には、

①各行為者が709条の要件を備えていること

②各行為者との間に関連共同性が認められること

 

という要件で良いように思われるが、この規範にはいくつかの弱点が存在することを理解しておく必要がある。

お馴染みの規範の弱点について

ⅰ)1つ目は、各行為者の各加害行為(過失)のいずれかと当該結果との間に因果関係が認められない場合の処理である。

719条はおろか、相当因果関係の認められない行為を行った行為者に対する709条の不法行為に基づく損害賠償請求もすることが不可能となってしまう。これでは、被害者の救済が十分に図れないことになる。この場合は、そもそも①要件を不要とし、②の関連共同を客観的関連共同の意味で捉え、②を肯定することで共同不法行為の成立を認めた上で、損害額全体の賠償請求を認めるべきであろう。

肝心の理由付けだが、①要件については、719条の意義から論じれば良い。客観的関連共同が認められ、「共同行為」といえれば、この「共同行為」と相当因果関係のある損害につき賠償責任を負わせる点に719条の意義があると考えていくのである。こう考えることで、各行為者の各行為と結果との間の個々の相当因果関係要件は不要と考えることができる。

 

ⅱ)2つ目は、直接の死因となった行為が明らかな場合の処理である。

e.g.交通事故と医療事故とが発生した場合に、直接の死因となったのが医療事故による場合(治療方法の誤りや手術に失敗し死亡した場合等)

この場合、①要件の検討として、そもそも交通事故と医療事故とが当該損害(被害者の死亡)につき相当因果関係を有しているかを検討することになるが、この事例では、交通事故と相当因果関係があるのは交通事故による受傷という損害についてであるはずである。他方、医療事故と相当因果関係があるのは被害者の死亡という損害についてであり、交通事故で生じた受傷という損害については相当因果関係がないのではないか、という問題点が浮かび上がってくる。

なお、仮にこの点をクリアしたとしても、②要件である「関連共同」性、判例に従えば、「関連共同」とは、客観的関連共同のことであるが、これについても認めることが難しい。

というのも、先の平成13年判例がこの手の事案の先例とされるが、平成13年判例では、交通事故、医療事故と発生した損害との間に相当因果関係が認められる事案であったからだ。つまり、各行為の内、どちらが直接の死因となったかが判明している事案においては、判例の規範をそのまま用いることはできないのではないだろうか?ここでは、判例の射程が問題になり得る。

細かい議論は無視して、結論だけ述べてしまうと2通りの結論が導ける。

一つは、脳死して小難しいことを考えずに平成13年判例同様、そのまま②要件を肯定してしまうというもの。

もう一つは、判例の場合とは事案が異なるとして、②要件の充足性を否定することである。私としては、こちらのほうが整合性が採れるためこちらをお勧めしたいが、自己判断でお願いしたい。

この場合、結局は719条の共同不法行為は成立せず、709条の責任追及を行い、Xに対しては相当因果関係の認められる受傷の限度での損害賠償請求を、Yに対しては相当因果関係の認められる死亡の限度(つまり、受傷についての損害賠償責任は否定)での損害賠償請求を認めることになる。

 

 

論文で書く際には、事案に応じて①要件の要否と②の客観的関連共同をどう考えるのかが極めて重要なものとなる。その際、平成13年判決の事案を理解していないと判例の射程を意識して論じることが難しくなってしまう。そのため、平成13年判決についてはざっと目を通しておく必要があると考える。なお、昭和43年判決については、コンビナート型の事例であり、規範を打ち出したという点以外にめぼしい点はないといえる。そのため、特段時間をかけて読み込む必要はない(昭和43年判決について、共同不法行為の先例とすることには疑問が残るとする学説も有力である)。

 

 

以上が、共同不法行為論の厄介なところを出来るだけ端的にまとめてみたものである。

なお、論文執筆との関係で内容については精査しているものの、一部表記が怪しかったりするかもしれないが、あくまでも私の備忘のためなので許してほしい。